加世田中野の山神講

毎年11月23日、中野集落公民館で行われる、還暦祝いの行事。
もともとは山仕事の節目の日に、山の神への感謝と、集落民の慰労を兼ねて始まったものと伝えられている。戦前も青年クラブで開催していたが、戦中集落行事としては途絶え、個人宅に集落民を呼んで還暦祝いとしていた。戦後昭和26年に集落行事として復活。その後一年も途絶えることなく、今年は60年目の節目に当たる。

御神体はなく、ご神体代わりの「大根杯(だいこんはい)」というものを作る。今年の大根杯は、高さ11センチ直径6センチのご神体代わりの大きなものと、引き継ぎに使われる高さ9センチ及び6センチの3つが作られた。大根杯とともに、今年できたカライモ(薩摩芋…黄金千貫・紅薩摩)、米、塩、焼酎が供えられていた。

講員資格は、集落民全員。集落行事として全世帯に呼びかけ、参加できるものが集まる。今年は41名の参加であった。女性も参加できる。
当番役は、「トウジシャ(当事者)」と呼ばれ、次年度トウジシャになる者を「ワキ(脇)」役という。トウジシャは集落の年長の者から順番に決まる。もともとは中野上地区1名・中野下地区1名、併せて2名がトウジシャになった。平成5年から下を2名にし、併せて3名とした。平成16年からはもとの2名に戻した。年長順に祝っていくもので、必ずしも還暦にはあたらないが、今年はたまたま還暦を迎える2名がトウジシャとなった。
公民館での祭りでは、トウジシャからワキへの、大根杯の引き継ぎ式という習俗がある。小さいほうの大根杯を、トウジシャ役2名がそれぞれ持ち、ワキ役2名へ箸から箸へ「橋渡し」する。

この公民館での行事が終わると、トウジシャが家々で「返礼」をし、そちらのほうが大変賑やかだったとのこと。現在は、この返礼も公民館でする。

中野の山神講は、トウジシャが山ン神祝いを迎えるまで長生きできたことを喜び、集落民が、集落の年長者として今後も活躍を願う行事となっている。また、まずしい時代には、仕事の休み日の「焼酎をたらふくいただけた」楽しみとして大切な集落行事であった。昔は各家から煮しめなどの手料理を、重箱に詰めて持ち寄って祝ったという。
さらに興味深いのは、夫婦ともに祝うこと。一般に山の神と言えば女性の神様で、祭りにも女性禁忌が見られるが、ここでは夫婦そろってお祝いを受ける。

小野重朗氏は、鹿児島の山ン神講について、本来は正月・五月・九月の16日に実施するもので、薩摩北部や大隅中南部で盛んに行われており、講に先立ち豬狩りをし、山ン神講ではそれを共にいただくという。また、薩摩半島では、そうした習俗は見られず、「山」の神の信仰とともに、「畑」の神の性格も帯びてきているという。

この中野集落でも、畑作物への感謝のすがたが、供え物に見られた。大地への感謝と、地域の年長者を祝い集落の融和を図るという、二つの目的が、中野集落の山神講にある。
里にある山の神は、人々の祭り方次第で多様に性格を変化させるという、興味深い行事を、今日は拝見した。

●調査地:鹿児島県南さつま市加世田武田 中野公民館
●調査日:2010年11月23日 正午から

【中野公民館長挨拶】
皆さんこんにちは。昨日は河川愛護作業で、堤防の草払いをしていただき、きれいにしていただきました。御苦労さまでした。
本日は、全国的には勤労感謝の日であります。国民の祝日で、働くことを喜び、お互いに感謝しあう日であります。

中野集落では、伝統行事として昔から、集落内の長老のご夫妻を「当事者」として公民館にお招きしまして、これまでの数々の功績をたたえ、還暦祝いとして、集落民一同で山神講を開いております。
大根で杯の形を作り菊の花を挿す「大根杯」を当事者が作り、当事者が「脇」役―来年度の当事者―へ、箸と箸で大根杯を譲り渡すという行事でありまして、お互いの長寿とご多幸を祝う行事であります。

戦争で一時中止しておりましたが、終戦後、伝統的行事として復活しております。終戦後、昭和26年から昨年までに、125名の方々が山ン神講祝いをしております。26年から平成4年までは2名ずつ、平成5年から10年間は3名ずつでやっておりまして、また16年から2名ずつを当事者としてお祝いしております。

今年は終戦後60周年の記念の山ン神講祝いとして開催します。今年はまた天候にも恵まれ、穏やかな季節の中、公私ともにたいへんお忙しい中、鹿児島民具学会の先生、南日本新聞社支局長、市役所広報課のご三名のご出席をいただき、中野公民館山神講ができますことに感謝を申し上げます。

今年の当事者は、竹添○○氏と田代○○氏でございます。昭和26年生まれで、ちょうど今年が還暦の年で、お二人御夫婦の当事者として山ン神講祝いを開会いたします。脇役が有村□□さんと、竹添□□さんです。
当事者の○○さんと○○君ご夫妻、集落民一同からお祝いを申し上げます。改めておめでとうございます。二人にはまだまだ人生半ばで、健康には十分気をつけていただき、還暦、古希、喜寿、米寿、白寿のお祝いまで、命ある限り、これまで以上のご指導と、ご活躍で、地域発展に協力をお願いします。

本日は集落民有志がカライモで作った自慢の焼酎「山神講」で乾杯し、お互いの祝福と、親睦をはかり、和やかな山ン神講ができますようお願いいたします。
本日の山ン神講に、たくさんのご参加をいただき、ありがとうございました。当事者のご家族様と、出席者の皆様の活躍、ご多幸を祈念しまして、簡単ですがお祝い言葉とします。

●写真帳:中野山神講